かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

教育雑記帳(67) 悪筆の栄え Ⅱ

 字が変わってきた子供を、これまで何人も見たことがあります。

 もちろん字そのもののバランスが取れて、ヘンなクセ字が是正されるという点もありますが、何より字が変わってくる子は、たいへん計画的に字を書けるようになって来ます。

 残りのスペースを塩梅しながら数式を書くことが出来たり、必要な場合はきちんと立ち止まり自分の書いたものを確認しながら思考を進めるなど、ずいぶん心に余裕が出来て、視野もまた広いものとなっているように思います。

 これを発達と言わずに何と呼べばいいのでしょう。実際にそんな段階を経た子は、こちらから逐一教えるという事をせずとも、一人で学習の要諦を掴んで一人で勉強できる状態になっているのです。

 それもそのはず。何しろ「計画的に書ける」ということは、これから自分が何を書くのか、何のために書くのかを知悉しているわけですから、そこには歴としたロジックが伴っているのです。時には間違うことがあっても、将棋指しが盤面を見ながら感想戦をするようにして、その時の自分の思考を自分が書いたものから辿りつつ、正しい答えを導き出すことだって容易いわけなのです。

 与えられた問題についてさして何も考えず、何となく字を並べているうちは、その頭の中の思考回路も「そうして書かれたもの」よろしく錯雑としているのであって、たといそれが正解したとしても再びその答えに至った回路は不明瞭で、正直辿りたくもない杣路に他ならないのです。

 故に、小さな悪筆家にすべきアプローチは、その字を書くより先に一端立ち止まらせることであり、どんな大きさで書くべきか、これから何を書くべきか、いっしょにその計画を練ってやることなのではないでしょうか。

 そんな積み重ねをしているうちに、悪筆の栄えは早晩その影をひそめ、代わりにロジックの美しい夜明けが到来することでありましょう。