かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

育児漫遊録(32) ミルトンよさらば Ⅰ


 大鍋にぐらぐら湯を沸かして、毎晩のように父や母が弟の使った哺乳瓶を煮ていたのを覚えている。

 煮沸の時代からいつの間にか、世は「ミルトン」の時代になったらしい。会う親戚ごとに「哺乳瓶を毎晩」というお話しを伺ったわけであるが、ミルトンの有り難さを享受した私には、それがひとかたならぬ苦労話のように聞こえてしまう。

 時代が変わったのは、煮沸ばかりではない。「布オムツ」もまた私たち夫婦の子育て要綱には採録されていない。現在の子育て世代が実にその布から紙への過渡期と言われているようだが、朝ドラ恒例のおしめ乾しを見せられても、我が子のオムツ替えの頻度に思いを致すだに、その並大抵でない先人達の努力と掛けた手間にただただ戦くばかりである。

 そんなことを考えると、実に子育てはラクになったと言わざるを得まい。紙オムツだって二十年も前に比べれば、ずっと柔らかくて吸水性も格段に向上しているはずであるし、出先に持っていける固形のミルクだってある。

 あらゆる手間と、先人達の「あんなこといいな、できたらいいな」がいくたりの試行錯誤を経て西松屋の店頭に、インターネット上に綺羅星のごとくに並んでいるのだ。

 私は近代合理精神に則って、その一つ一つを有り難く享受しようと思う。ただ一つだけ留意すべきは、そうして出来た時間を如何に使うかという事であろう。

 水洗いした哺乳瓶をミルトンにどぶ漬けしながら、そんなことを考えた。