かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

盆人漫録(23) そして誰もいなくなった

 これは、ひょっとして、孔明のワナかしら。

 はるばる同好会ご一行様が到着した「盆栽交換会」会場には、車の一台、人の影すら見当たらない。一応、ここは園芸店であるからして、庭石なり盆栽の数鉢こそあれ、肝心の店主の姿もありません。

 鳴子の山を少なからず登ってきたわけだから、陽当たりの悪い山手などに佇んでいると、流石に肌寒い。斜面に生える楓や紅葉は、すっかり散り尽くして、私たちよりほかに誰もいない駐車場の寂しさを一層引き立てます。

 『近盆』に掲載された、主催者とおぼしき連絡先に電話を入れてみるけれど繋がらない。仕方なしに押してみた園芸店の呼び鈴は、けたたましく山合いにこだまして、熊も人間も肝を潰す。

 後で分かったのは、仙台から来るという「交換会」主催者が、一般出店者の激減にともない開催を断念したとのこと。場所を貸している園芸店のご主人も、一時間待ったが誰も来やしないものだから出かけちゃったそうで。

 需要ばかりあって、供給がないのでは仕方がありません。そいつは交換以前の問題であります。

 巨大な鳴子石に植え付けられた「石付き」盆栽を眺め、下山する一同。どの顔にも「いっぱい食わされたぜ」と書いてあって、いつにない連帯感がありました(笑)。

 さはれ、帰る途中の楽しみは、かねてより懇意にしている、隣町の愛好会が開催している秋期展示会。

 三五年前に苗木を手に入れたという「那須五葉」が展示会の大看板を張り、気鋭の若手の姿もちらほら。これはうかうかしていられません。早速、名刺代わりに拙文『盆・歳時記』を差し上げて参った次第。

 「交換会」でモノを仕入れることが出来なかった分、こちらでしこたま好い樹を見せてもらって、目の肥やしと新たな刺激を頂戴した同好会ご一行様なのでした。