かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

盆栽教育論(6) 実生苗と幼児教育Ⅰ

○立ち上がりこそ

 盆栽を観賞する際の重要な評価ポイントの一つが「立ち上がり」と呼ばれるものです。

 その名の通り、表土から伸び上がって、最初の枝に至るまでの幹模様(幹の様子)を指して「立ち上がり」と呼ぶわけでありますが、ここに曲(ひと曲がり)があるかないかで、その盆栽の価値は驚くほど変わってくるのです。

 例えば、立ち上がりの曲こそないけれど整った樹形で完成されている盆栽と、同サイズ同種の樹で立ち上がりは好いけれど、まだ手が加わっていない寝起きの頭みたいな素材があったとします。盆栽をはじめたばかりの私であれば、きっと前者に飛びついたことでしょうが、流石に私も痛い目を見ながら曲がりなりにも学んだ身、今ならだんぜん後者の荒木をにやにや玩弄して、早速お財布と相談をはじめることでありましょう。

 果たして、それは一体どういう価値尺度によるものなでしょうか。単に私が「立ち上がり」に異常な拘りを見せる、盆栽愛好家特有の性向を身につけたということなのか、と思われても仕方がないふしはありますが、これには歴とした理由があるのです。

 盆栽の「立ち上がり」とは、その樹にいつから、どれだけ人の手が加えられてきたかを示す、ひとつの指標なのです。立ち上がりにしっかりと曲が入った樹は、それだけ若い時期から将来性を見据えた計画が織り込まれた樹であり、それこそ丹念な幼児教育を経た樹と言っても差し支えがないのです。