てっきり自分もまた中に入れるものだと思っていた。ところがどっこい、夜間入り口でスリッパを履きかけた私はまさかのゴー・ホームを宣告されて、二月の夜に立ち尽くす。
送ってきてもらった父は、ぶつけたワゴン車で去ったばかりであるし、最寄りのスターバックスコーヒーまでは五百メートルほどある。とりあえず家居に電話を入れてお迎えを頼む。こんなことならば、自分は軽トラックで後を追っかけてくればよかった。
さりながら父にぶつけられたばかりの車は、暗がりで損傷箇所も定かではない。そんな危なっかしい状態の車で出発して、腹から出てくる息子と入れ違いになっては笑い話で済まない。
風が吹き払った雲の間からは、よく星が見えた。それしか見るものがないという時、人間は中々素敵な観察眼を発揮するものである。昔から星座には今ひとつ興味の薄かった私であるが、個々の星々から小学生でも分かるオリオンを見つけ出し、その一角がたいへんに明るい一等星であることを発見した。
ガリレオやケプラーは、こうした星々を朋として夜な夜な彼らと語り合ったことだろう。そんな感慨に浸り込みながら、寒さを紛らしていると南の方角から複数の羽音と共に、一団の雁が渡っていった。ずいぶんと低いところを飛んでいるのか、星々を横切り私の頭上をすいと横切る折には、V字に整列した腹の白さまでがありありと見て取れた。
そんなことをしているうちに、ようやく電話が鳴る。「本式の破水ではないらしいが、破水にはかわりないので入院して、今晩か明日には分娩をする」とのこと。それをどこか事務連絡のように聞いている頭は、いまだ事を事として受け取れていない。
二週間後、つまりは自分が本式の父親になるのは、まだ先のことであると思っていたところに、「今日明日でお前は父親になるのだぞ」と言い聞かせたところで、やはり脳細胞の過半数はいまだ半信半疑なのである。われながら物わかりが悪くて困った。