育児漫遊録(20) 上から下から Ⅳ
調べたところによると、排便の頻度は子供によってかなり個人差があるということである。
一日一度、オトナみたいにまとめて出すことが多い我が子であるが、時にその帳尻が狂って出し損ねる日がある。すると彼の腹はぽっこり小山みたいに張り出して、四六時中ぷっぷ、ぷっぷとガスばかり出している。それが出ているうちはまだ良いのであるが、いよいよ腹の皮が退ッ引きならないくらいになると、夜中でもなんでも火が付いたように泣き出すし、さっきまで飲んでいたミルクだって脇へよけてしまう。
すると今度は、下っ腹の圧力が上の方にもかかるのか、ちょっといきんだ拍子に上からミルクが戻ってきて、これぞまさしく上を下への大騒ぎ。こんな時はだいたい長期戦になる。
看護婦さんに教えてもらったように、泣きわめく我が子をバスタオルに転がして、下っ腹を「の」の字に揉む。頃合いを見て次は縦抱きにして揺すり、何らかの効き目が表れるのを待つ。
こんなことを夜中にやっていると、極めてツライ感じになるわけであるが、我が子はもっとツライ生理的不快感に苛まれている最中なのである。考えてもみよ、大いに便秘した状態で腹が張って眠れなかったらオトナでも往生してしまうし、私ならすぐと医者だ、薬だ、と大騒ぎするに違いない。
彼はそんな不快や不安を、泣くことを以て伝えるよりほかに方策がないのである。言葉の世界に生きる私は、言表不可能な不快や不安には堪えられない。なればこそ、養育する側の人間は彼の一挙手一投足から非言語的な言語を読み取らねばならないし、考え得る不快の要因をせっせと微分してゆく作業を放擲するわけにはいかないのである。
抱き上げた腕の中、「ゲー」と乾いたゲップが立て続けに二度、それを追うように特大の「プー」が三度。上から下から、同時にガスが抜けたらしい。我が子はあの泣き方なぞまるでウソのように安らかな寝息を立てはじめるのであった。