かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

育児漫遊録(31) 注射の心得 Ⅴ


 ついとこの間打ったばかり、なんて思っているとまた直ぐに一月後の予防接種が迫っている。目を真っ赤に充血させて世話している時には、延々と飴のように続くかに思われた時間が、殊注射となると昨日の今日みたいにやってくる。時間とは何と行き当たりばったりなものであろうか。

 さて、我が子よ。私がコロナのそれを四発も打ったように、お前もまた同じ注射を二発三発と打たねば済まぬ事情があるようだ。

 第二回目もまた『ロタワクチン』を呑んで、四発ほどぶっつりとやられるメニュー。晩のうちに家内と猛烈な勢いで申込書を五枚ほど書き上げ、当日は「痛いから泣くな」の呪文を聞かせて打つ。やはり経口の『ロタワクチン』は好みであるらしく、あんまり急いで飲んだものだからケホケホとむせる。

 そのどさくさに紛れて一本二本、三本四本とやられたものだから、たちまち真っ赤になって小さな拳を振り上げ振り上げ大泣きに泣く。これは流石に不意打ちであったようだ。人生初の完全敗北とも言うべき我が子の顔は実に印象深いものであった。

 四ヶ月を迎えた第三回目も注射は四発。「大好物の『ロタ』が終わってしまって残念だったなぁ。」と先生に同情されつつ、さて横抱きにして注射の体勢に入ろうとした瞬間、我が子の相好が崩れる。消毒もしない先から泣くところを見ると、あたかも自分がこれから何をされるか承知しているかのようである。

 お出かけ、いつもと違う場所、白衣の人、横抱き・・・という情報源から「注射(痛いことを)される」という答えを導き出したのならば、これはなかなかどうして大したことなのじゃないか、と親馬鹿を発揮して感心一入であったわけだが、ということはつまり、これから先の注射においても打つ前から彼はギャン泣きを決め込むということなのではないか。

 一月後、我が子はハンコ注射と対峙する予定である。