かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

育児漫遊録(23) メリー大好き男 Ⅲ


 「おれのメリーはさぁ、プーさんのメリーだったんだよ。しかもデラックスのやつでさぁ。」「あっ、わたしもわたしもー!」「ぼくも同じのだったよ。なっつかしいなぁ。」

 将来我が子が幼稚園か何かに通い始めた時に、同期からそんなことを自慢されて、自分のメリーにぶる下がっていたのがよく分からない感じの、けっこう熊熊しい熊だったらショックを受けやしないだろうか。私であったらそんなことを自慢してくるやつと付き合いはしないのであるが、ここでうちの子が人々の度肝を抜くためには、

 「え、ぼくのはブルーインパルスのメリーで、四機の飛行機がスモークを出しながら旋回するやつだったんだよ。」くらいの返しでなければ太刀打ち出来ない。

 別にそんなメリーはデタラメ(あったら是非欲しいけれど・・・)であるし、メリーで張り合うことなんて早々ないと思うけれど、やっぱり「プーさんメリー」は楽曲も多いし、おやすみタイマーなんかも付いていて、長じて後は何とつかまり立ちの補助具にすらなると外箱に記載されてある。

 それにしても私はせめて三千円くらいと踏んできたのに、五千円、七千円、九千円と見ればみるほど相場が上がっていき、これでは私のなけなしの小遣いが余裕で干上がってしまうことは火を見るより明らかであった。

 「あちゃー」という私の心の声が聞こえたのかしらん、隣に突っ立っていた小僧さんがニヤリとこっちを見て、ぷい、とどこかへ行ってしまった。かくなる上はプーさんメリーを一息に買ってしまって、後の憂いを断つよりほかに方法はないのではないか・・・そんな苦渋の決断にゴーサインを出しかけたその時、私の前にぽっかり空いた陳列棚の空洞の奥に、たった一台、「スタンダードメリー」があることを私は発見したのである。