かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

盆人漫録(6) 会長、同好会やめるってよ

 気がつけば、私が入った頃とはおよそ顔ぶれが変わってしまいました。

 そのせいで、ヒラ会員として気楽に過ごしていた私も、いつの間にか「理事」とか「監査」とか物騒な肩書きが付くようになりましたが、これも名簿というエスカレーターの為せるわざ。会員歴の長い人から、名簿の上へあがってくる仕組みであるから、それだけ上が居らぬようになってしまったということであり、そこはかとない哀しみがあります。

 もちろん物故された方もありましたけれど、急な脱退宣言にも驚かされたものでした。

 前会長さんが、年度末に言い放った「おれは、辞めることにした」には一同ビックリ。盆栽のウデもあるし、展示会のセンターを飾る大物をいくつも持っていらした会長さん。極めつけは、どこでそんなに集めたのか知らないが、大量に持っていた花台、卓で、展示会の度に乗用車一杯に積んできて、それだけで会員分がほとんどまかなえたほどでありました。

 盆栽のみならず、ゴルフや釣りまで、とにかく多趣味でエネルギッシュ。展示会ともなれば入念な段取りから、花台と鉢のバランスを見たり、自ら脚立に登って照明の塩梅を調節したりと、まさに獅子奮迅の働き。

 しかしながら、これはちょいとばかし会長さんが一人で頑張り過ぎていたのかも、と今になって思うこともあるのです。会長さんは折々「人に見せるのだから、ザマの悪いものは見せられねぇ」と言っていました。

 確かに、折角見に来てくれるお客さんに「ザマの悪い」ものなど見せてはいられません。そんなことは我々も重々承知ではありましたが、いったい会長さんがどの水準を求めているのか、というところまでは理解を共有してはいなかったように思います。

 もう少し、ビジョンを語ってくれて、少しでもその仕事を任せてくれれば、会長さんの負担も少なからず減ったのではないかとも思うのです。

 「今まで、そういうつもりでやっては来たけれど、俺はもうその水準を維持することに限界を感じたので、会長の座も降りるし同好会も抜けることにした。」

 別に脱会する必要はないだろう、というのが誰しものツッコミでありましたが、それも会長さんのプライドが許さなかったのでしょう。

 今では、私が段取りの説明をしたり、脚立に乗って照明をいじったり、かつて会長さんが心を砕いた仕事をしているわけで。されど、一人だけ頑張り過ぎては前者の轍を踏むことになりますから、そこは同好会の仲間たちと持ちつ持たれつ。

 盆栽でつながっているからこそ、年の差など超越して気軽にものを頼める。気兼ねなく自分の意見を出せるのです(主に「剪っちゃえ」とか)。

 今現在のわれわれに出来る最善を、お客さんに見てもらえるよう、われら同好会一同、そしてその盆樹たちは、秋の展示会に向けて活動中なのであります。