かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

盆人漫録(8) アリの図書館戦争 上

 さつきの咲き誇る季節。朝霧に包まれた図書館の駐車場に、会長さんの車がそろりと入ってくる。

 まだ作戦開始時刻まで四時間もあるけれど、段取りを重んじる会長さんの作戦行動は既に始まっていて、車から降り立った会長さんは、颯爽と歩いてお家に帰る。

 会長さんの車には、例の花台がぎっしり詰め込まれていて、作戦開始と共に停車したベストなポジションから、バケツリレー的に会場へ物資を運び込む段取りなのです。

 一〇〇〇、作戦開始。まさかの先陣を切ったのは沼倉さん、ではなくて沼田さん。車を横付けする段階で既にして柔らかめのカラーコーンを幸先良く(?)討ち取ってしまい、一同が別なイミで奮い立つ。

 会長さんと一緒に陣頭指揮を執る徳江さんに怒られながら車を付けたは良いものの、運び込んだ樹の中に満場一致で「こいつぁ、いけねぇや!」というのがあって、直ちに撤退を余儀なくされたものもちらほら。

 総力戦とは言え、何でもかんでも持ってきてよいわけではない。徳江さんも泣いて馬謖を斬ったのであろう、と感慨に耽っているヒマもなく、不慣れでいつもより三倍広い会場で、三倍働き回らなくてはなりません。

 私と徳江さんの軽トラック二台が、何度街中の会員の家を往復したことか分かりませんが、そんなこんなで漸く展示スペースも埋まってきて、残すところあと二席分くらい。

 「あ、そういえば! べ、べつに忘れてたわけじゃないんですけど、ここには確か・・・」「遅れる、って言ってだっけげっとも、そろそろ来るんでねすかや?」

 と首をながーくして、あの沼倉さんを待っていると、メンゴメンゴという感じでそろーっと、沼倉さんが登場。何でも大きな鉢だから手間取ったとかで、これはどんなものかしら、と皆興味津々。早速運び込んでみることになりました。

 なるほど、山採りならではのハゼ具合。若いころに山採りを結構買い漁ったという話も、やはり伊達ではなかったのだ、と一同少なからず感心していたその時でありました。

 「あれ、なにか這ってる。」

 きれいに敷いた展示台のクロスの上を、黒い点がちょろちょろっと、走ったような気がしました。でも、皆はそれに気が付かない様子で、およそ初めて目の当たりにする沼倉さんの赤松を鑑賞しています。その後は別段の異常もなかったため私も、まあ気のせいだろう、くらいに思ってその日は半日に及ぶ長い作戦を終了したのでありました。

 しかし、事は仕掛けられた爆弾のように、あろうことか展示会初日に牙を剥いたのです。