あんなにフットワーク軽く、気の趣くまま自在に方々を駆け回っていた徳江さんが、市役所の大階段から落っこちて病院に担ぎ込まれたという報せを受けた一昨年の秋。
命には別状なしとのことではありましたが、足の骨を大々的に折って数ヶ月の入院を余儀なくされる事態になりました。久しく動いていなかった同好会のグループラインが動いて、直接連絡を受けた吉原さんから事の仔細と共に「水やりの危機」が伝えられました。
折しも秋晴れの続く好天。突如主が不在となった徳江さんの巨大な棚場の樹々が、どんな顔してこの秋の日を浴びていることかたいへん気に掛かります。
育てるのに多くの時間を費やしても、枯らすは一時。自分の樹でないとは言え、徳江さんがコツコツ挿したり、捜しては買い求めてきた樹をむざむざ枯らすというのは、どうして愛好家の倫理的に看過できない問題です。
幸いなことに、みんな徳江さんの棚には通い慣れているものだから、声をかけたメンバーは二つ返事で作戦に協力してくれることになりました。
東北といえども冬将軍の到来には少しばかり早く、水やりはまだまだ欠かすことが出来ません。早速シフトを決めて一人につきおおよそ週二回、徳江さんの棚場に足を運ぶことになったわけですが、そこには一抹の不安もあり・・・。
言ってみればちょっとした盆栽園。常々徳江さんが「水やりがおどげでね(=半端じゃねぇ)。」と口にしていたことを思い返すと「え? 勝手を知らねぇ人がのこのこ出向いて行って、フツーに出来るもんなの?」という不安が最早一抹どころの騒ぎではありません。
会員からは「確か、一箇所じゃなくて納屋の前とか、母屋の前とか、あ! 玄関のところにも棚があったよなぁ?」なんて声も出て、一同「そいづは、おどげでね。」となったわけで。
だから勝手を知らない最初のうちは、バディ制ということにしておいて、二人で任にあたることとなったのでした。
さて、やってきました徳江さんの棚場。デカい・・・デカすぎる。十万石・・・の広さこそないけれど、これにジョーロで可愛く水やりをしていたらマジで軽く一時間がトビます。
ですが、ご本人に一応水やりの許可をいただいた吉原さんの情報によれば、何やら「システムがある」とのこと。二人のはずだったのに結局みんなやってきた同好会一同も、これには流石にどよめいたとか、どよめかなかったとか。