かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

盆人漫録(17) ビックリドッキリ盆栽

 今週のビックリドッキリ盆栽はこちらです! とばかりに持ち込まれましたる「知らない樹」。

 やっぱり蔵者は、わが同好会でも随一の「集め屋」の異名を取る沼田さん。

 「こいづ、どっから持ってきたの?」と尋ねられても、沼田さんはニコニコしながら首を傾げるばかりで、家から持ってきたことだけは確かなのだけれど、肝心の出所は不明な午前九時五〇分。

 沼田さんはいつも九時半には会場にやってきて、公民館の研修室の机をロの字型に設置して、しかる後に持参した樹をえっちらおっちら、公民館の台車に載っけて運び込む。そのあたりにちらほら会員が参集して、「やぁ、早いですな」「いやいや、おれ、早く来たもんだがらっしゃぁ。」と、いつものやりとりがはじまります。

 沼田さんの工具はいつも独特。大きな工具箱はかつて電気工をしていた時代からのもので、針金をいじる際のニッパーや、ラジペンの柄は年期の入った絶縁仕様。

 これなら針金を外している最中に、ピカチュウの十万ボルトを食らっても平気だろうな、と私が眺めていると、それに気づいて「おれっしゃぁ、電気屋だったからっしゃぁ。」とにっこり、いつもの工具見せ合いっこがはじまります。

 何につけても、愛好家という人種は互いの趣味道具に感じ入りやすく出来ているものとみえて、何処で買い求めたかとか、こんな時にも使えるかだとか、ナンボで買ったの? とか、本題に入る前にそこで盛り上がってしまうものであります。

 ひととおり、いつものルーティーンを終えて、さて本題の「知らない樹」を遍照台上にぐるぐる廻して拝見しますと、さてもやは、誰もがそのムズカシさにハートを射貫かれる新木も荒木。こいつをどこで? と誰かがもう一度尋ねても、御大は「さぁ、えらぐ前だったがら、覚えてないのねぇ」と百点のえびす顔。

 時計が十時を告げて、司会の吉原さんが開会の挨拶と次の展示会について、文化協会との打ち合わせの詳細を報告しているところへ、講師として隣町からお招きしている平先生が到着する。

 先生は何も言わないけれど、ロの字型の机の真ん中に据えられた「知らない樹」を一瞥して、もう一回ちょっとだけチラ見して、それからさりげなくガン見してから、駐車場の松の木をブラインド越しに渋い顔をして眺めている。

 毎回毎回、沼田さん蔵の「知らない樹」がいったいどこから湧いてくるのか誰にも分からないけれど、それに毎回毎回一番ビックリドッキリさせられていたのが「先生、これをひとつ・・・」とお願いされる平先生であったことは、どうやら確かなようでありました。

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