かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

盆人漫録(13) そのお客、玄人につき

 かつての酒蔵を改装して、少しく気の利いた照明設備を取り付けたギャラリーが、私たちの展示会場、その名も「蔵」であります。

 一時期は図書館にまで進出したわれわれ同好会でしたが、会員減少=鉢数のいかんともし難い減少には抗えず、もとの鞘である「蔵」へとカムバックして「やっぱり、ここがこじんまりしていてイイかもね」なんて、ちょいと寂しげな笑みを浮かべているとか、いないとか。

 盆栽を展示する会場としては、まさにうってつけのギャラリーなのですが、唯一のネックはその立地。元々酒蔵なわけですから、そんなのをわざわざ通り沿いに構えるはずもありません。表通りから大分セットバックしたところ、それもケッコー立派な冠木門のさらに奥に「蔵」が鎮座ましましているものだから、道行く人が「おっ、あすこで盆栽を展示しておるぞ!」という感じにはなりません。

 ではどんな感じになるかと申しますと「あれっ? お隣で能面の展示をやってるって聞いて来たんですけど、こちらは盆栽の展示ですか?」とか「えっ? こんなとこでこんなことやってたんだ!」ってなわけで、ある意味お客さんたちにはサプライズを提供していると言えなくもありません。

 それでも市井にはわれわれ同好会員の外にも、ひとり静かに盆栽を育てておられる愛好家の方々もいらっしゃる。そんな方々はやはり普段からアンテナを張っておられるのだろう、市民文化祭のチラシの一隅に書かれた『盆栽展示 蔵にて』というかそけき情報を頼りに、わざわざ足を運んでくださるのですから、ほんとうに有り難いものです。

 それでもそうした御仁は、最初から「おれさぁ、かなり長く盆栽やってんだけどさぁ」ってな感じで、肩で風切ってくるわけではありません。あくまでそろぉ、っと入ってきて、伏し目がちに記帳を済ませる。そして一つひとつ展示を回って、何か思うところがあるのか、たまに深く考え込むように腕組みしては、矯めつ眇めつその一席の前を行きつ戻りつして、漸く口を開く。

 「このぉ、品種は日光系ですか?」

 ここまでくると、この人はやっぱり素人ではないと分かるもので、会員が行って説明すると、おもむろに「へぇ、それは持ってないなぁ。けっこう珍しいよね。いやね、私も」と目が光って、やっとこさ愛好家の本性を発揮されるのである。

 「どうです? 月二回やってますけど、ひとつあなたも来てみませんか?」と誘うけれど、だいたい「いやぁ、この年ではとても」と謙遜されて、「また見させてください。」と去って行くのが定番の流れであります。

 やはり長年、ソロ盆栽活動を続けられてきた方々には、その人なりのペースというものがあるのでしょう。そうした方々の盆栽に向き合う姿勢や経験を展示会の合間に拝聴していると、心の底から「ステキだなぁ」と敬服している私を発見するのです。

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