かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

盆人漫録(27) 盆栽ゼロ年

 年明けの盆栽同好会で、思いもよらぬ物をもらいました。

 挿し木をしたポット苗や、「ちょっと棚の整理に協力されたし!」と譲りうける鉢の類いではありません。実にそれはプリントアウトされた文章であり、制作者は昨年同好会に入会された佐々木さんでありました。

 佐々木さんは何と言っても勉強熱心。盆栽はほとんど未経験のところから始められて、毎回の教室においてもメモを手放すことがありません。「何か入門的な資料はありませんかねぇ?」と仰るので「もしこんなものでよければ・・・」展示会の折に配布していた拙稿『盆・歳時記』を差し上げたところ、思いがけぬレスポンスを頂戴した次第であります。

 書いたものについて、こうして誰かに反応してもらえるということは実に幸せなことです。何でも佐々木さんは、私が随筆風に書き飛ばした要点や、説明とは言いがたいレトリックを丹念に整理分析してレジュメを作ってくださったわけなのです。

 中でも心を打たれたのは、取り入れた知識を自分の経験と知識と擦り合わせ、それを一つひとつ言葉に落とし込んでいく、という作業をされている点でした。これはまさに、一度読んで分かった気になっているような学生たちに、その爪の垢を煎じて呑ませてやりたくなるような「学び」の在り方に外なりません。

 そして『盆栽同好会を愉しむ』と銘打たれた文章には次のような一節がありました。

 70歳を過ぎて、誉められ、認められることは意識せず、遊び心とロマンで非日常にしたり、好きなことに磨きをかける思いだ。(佐々木氏『盆栽同好会を愉しむ』より引用)

 外聞を離れ、自身のうちに新たな「遊び」と「ロマン」を見いだし、日常のうちに「非日常」を創造する営みこそ、まさしくあらゆる〈趣味〉と名の付くものの目指すべき境地と呼べるものでありましょう。

 さて、私もうかうかしては居られません。佐々木さんの盆栽ゼロ年は、豊富な人生経験に裏打ちされたゼロ年であって、植え替えもサボってへろへろと言の葉で遊んでいる私の一年に比して、たいへんに重厚な一年であったようです。

katatumurinoblog.hatenablog.com
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