盆栽
樹も塾生も、漫然と付き合ってばかりでは面白くない。 不思議な縁から私のところへやって来た彼らは、日々変化していく。これは文学作品であったり、プラモデルにはない厄介な点であると同時に、最大の面白みでもある。 生きているものを相手にしているから…
これは、ひょっとして、孔明のワナかしら。 はるばる同好会ご一行様が到着した「盆栽交換会」会場には、車の一台、人の影すら見当たらない。一応、ここは園芸店であるからして、庭石なり盆栽の数鉢こそあれ、肝心の店主の姿もありません。 鳴子の山を少なか…
かつて諸葛孔明は、空にした城の楼上に琴を弾き、詰めかけた敵軍をまんまと欺いたそうな。 盆栽愛好家なら知っている専門誌『近代盆栽』には、毎号必ず全国各地の展示会情報が掲載されています。これを頼りに、われわれ愛好家はまだ見ぬ樹と同好の士との出会…
会の皆で話しているとたまに「盆栽誌に掲載されてくる写真は、やっぱり抽象的だ」という話を聞くことがあります。 樹もまた生き物ですから、雑誌と同じ樹なんてないのは当たり前だけれど、いざそいつをマネて作ってみようとすると「オカシイ、この通りになん…
棚飾り(漫画のカット順に) 棚は山をイメージして飾る。麓に落葉樹の林が広がり、山巓には常盤木の緑が冴える。さて、床の間に拵えた小山に徳利でも提げて行こうよ。○黒松 半懸崖 安全ピンで曲付けされた苗(初心者ホイホイ)を「ムサシ」で買い求めて四年。当…
高足台 ○真柏(シンパク) 半懸崖・吹き流し風 黄色い鉢が似合う、ハイカラな奴。 最近ついに念願のシャリ(舎利)を入れたらしいのだけど、本人は「なんか白すぎんじゃね?」とブーブー文句を言っている。 「だって、急だったし・・・」「だったし?」「タミヤカラ…
盆栽の鑑賞について、何かマニュアル的なものを語ってみようと思ったのですが、そんなケンイ的なものをしゃちこ張って云々申したところで、寧ろ胡散臭い感じがします。 確かに絵画の世界ですと、感性に従って観るのにはどうしても限界があって、時代的考察や…
沼田さんが教室に持ち込んだ初見の五葉松。寝起きみたいな頭で、ところどころ枝がトンでいるものの、どうして葉性も古さも悪くありません。 講師の平先生が来たら手をかけてもらうのだ、といつもの他力本願っぷりを発揮していますが、そこに連絡が入って本日…
上手な似顔絵を見た人々は、口々に「○○っぽい」「似てる!」と感嘆するけれど、写真をみてまさかそんなことを言う人々はいないでしょう。 こんな樹が山の中にありそうだ、と人々に思わせるためには、そのものを見せるよりも「っぽい!」と直感させるものの方…
盆栽とは自然を模倣する遊びです。人の手が自然の似姿をこしらえる不自然さのうちに、逆説的な自然を感じるというのが、盆栽を通して見えてくるわが国固有の文化なのかも知れません。 そんな盆栽には「樹形」と呼ばれるいくつかの型が存在します。必ずそれを…
○双幹 ツインタワー的なものを想像される方もあるかも知れないが、そんなキングギドラみたいな樹もちょっと見てみたい気もする。 親の幹と子の幹と、それぞれ独立した樹芯が一本の樹のほのぼのとした輪郭を形作る。 「なぁ父ちゃん、おいらもその位の背丈が…
○根上がり 「え? 掘るンすか? オレの足元を? 何で? バカなんすか? そこは幹じゃないっすよ。根っこっすよ?」 という樹の声が聞こえて来そうである。愛好家のヘンな愛情によって掘じくり返された根は、空気に触れて硬くなる。 「そりゃ、そうっすよ。あ…
○直幹 真っ直ぐに、ひたすら真っ直ぐ空をさして伸び上がるその幹に、曲(きょく)なんて小細工は無用である。 え? 幼稚園児の描いた樹にそっくり? カンタンにつくれそう? 確かに、言われてみればその通りであるけれど、実のところ「曲の入った樹」よりも「…
○模様木 さて、そこのあなた、突然ですが盆栽をイメージしてください! と言われた人が、何となく思い浮かべる盆栽の樹形こそが、ザ・王道の「模様木」。一億円の盆栽も、波平さんの松も、卒業式の松も、イラスト屋の盆栽もだいたいこれである。 立ち上がり…
それは、今回もまたはじめて同好会一同の前にデカデカと姿を現した、沼田さん所蔵の五葉松でした。 何なの? 沼田さん家はいったいどうなっているのだろう? と誰もが首を傾げる中「おっこいしょっと!」という気合いとともに十二、三号はある鉢を持ち上げる…
今週のビックリドッキリ盆栽はこちらです! とばかりに持ち込まれましたる「知らない樹」。 やっぱり蔵者は、わが同好会でも随一の「集め屋」の異名を取る沼田さん。 「こいづ、どっから持ってきたの?」と尋ねられても、沼田さんはニコニコしながら首を傾げ…
デパートにおける「何かお探しですか?」的な接客がどうにも苦手な私。 だからお客さんが樹を見ている間は、さて自分の展示の前で立ち止まってくれるかしら、と横目でお客さんの流れを確認しつつ、自分の作業をするというのが近頃の定番です。 別に派手な改…
近隣の盆栽会の顔なじみが尋ねてきてくれるのも、展示会をやる愉しみのひとつであります。 朋ありて隣町より来る。リポビタンや缶コーヒー、エンゼルパイの差し入れを引っ提げて、陣中見舞いに来てくれます。 このごろのコロナ流行りのせいで、久しく行き来…
もちろん展示を見に来てくださるのは、盆栽愛好家の方々ばかりではありません。そんな方々にこそ盆栽の面白みを発見してほしい、と展示会をやっているわけなのですが、やっぱりどうして、困ったお客さんというのもあります。 エー、そんな中には随分とエバっ…
かつての酒蔵を改装して、少しく気の利いた照明設備を取り付けたギャラリーが、私たちの展示会場、その名も「蔵」であります。 一時期は図書館にまで進出したわれわれ同好会でしたが、会員減少=鉢数のいかんともし難い減少には抗えず、もとの鞘である「蔵」…
Do It Yourself. 「自分でやってみたまえ!」それが、DIYの精神であります。 そんなことを言うものだから、マジで盆栽園並の配管設備を庭に拵えてしまう愛好家が出てくるというもの。 徳江さんの棚場に参集した同好会の一同が目にしたのは、庭の隅から隅…
あんなにフットワーク軽く、気の趣くまま自在に方々を駆け回っていた徳江さんが、市役所の大階段から落っこちて病院に担ぎ込まれたという報せを受けた一昨年の秋。 命には別状なしとのことではありましたが、足の骨を大々的に折って数ヶ月の入院を余儀なくさ…
まだ私が自分の軽トラを買う前、展示会の準備で徳江さんの軽トラを運転することになった時のことでした。 自動車学校を卒業して以来、一度もまわしたことがなかったマニュアル車。それを急に預けられて悪戦苦闘、ギッコンバッタンしながらも、何とかかんとか…
今よりもまだ頭数に余裕があった当時、展示会の当直は二人一組。 これが一人だと結構ツラいもので、このご時世だと検温と連絡先の記入をしながら、「この樹って、何ていうの?」とか、お客さんの質問にも応えなければいけません。 いつものこぢんまりした展…
さつきの咲き誇る季節。朝霧に包まれた図書館の駐車場に、会長さんの車がそろりと入ってくる。 まだ作戦開始時刻まで四時間もあるけれど、段取りを重んじる会長さんの作戦行動は既に始まっていて、車から降り立った会長さんは、颯爽と歩いてお家に帰る。 会…
その鉢は、ある男の手によって完成間もない大崎市図書館に持ち込まれたのでありました。 山採りの、まさに山味あふれる赤松。その持ち主は久し振りに登場した沼倉さん。イベント大好き人間である沼倉さんが、わが同好会にやってくるのは例の山形旅行とか、そ…
気がつけば、私が入った頃とはおよそ顔ぶれが変わってしまいました。 そのせいで、ヒラ会員として気楽に過ごしていた私も、いつの間にか「理事」とか「監査」とか物騒な肩書きが付くようになりましたが、これも名簿というエスカレーターの為せるわざ。会員歴…
鍋越峠を越えてくる「例のブツ」を、遅い桜の咲く公民館の駐車場に待っていると、そこへ見慣れぬ軽トラが入ってくる。誰のだろう? と見ていると、梅田さんが不敵な笑みを浮かべて降りてきたではありませんか。 こうなるとマジで業者感が半端ない。今日とい…
我らの強い味方、「盆栽のたけだ」へ行けなくなる日が来ようとは、いやはや夢にも思いませんでした。 コロナが我々の大事な補給線をいとも簡単に寸断したおかげで、同好会の誰もかれもが深刻な植え替え危機に陥ったのです。 最初の一年は何とかストックして…
山形へ行くなら、ぜひとも「盆栽のたけだ」さんへお寄り遊ばせ。 私の父方のおばあさんがそうだったけれど、山形人は優しくて親切、そんな言い伝えが、やっぱりマジなのだと納得できるのが、この「たけだ」のおじさんとおばさんなのです。 あの沼倉さんがハ…