かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

エッセイ

盆栽と暮らす(10) また出てきてくれるかな?

波平さんのアレをいざ自分でやってみるとなると、やっぱり不安なものです。次の芽がちゃんと出てくれるだろうか、何年経っても私はおっかなびっくりであります。あんな穏やかな顔で、時にはタラちゃんの相手なんてしながら芽切り作業に勤しめるなんて、波平…

盆栽と暮らす(9) 波平さんのアレ

陽の当たる縁側で、波平さんがぱちりぱちりと愛培の松を鋏んでいます。 日曜日の記憶としてすり込まれたおなじみのアノ風景でありますが、実はアレ、とってもレアな作業なのです。 かつては私も盆栽をはじめるまで、盆栽というものはああして波平さんだとか…

育児漫遊録(28) 注射の心得 Ⅲ

かつて私の母は、これから注射を受ける幼い私に「痛いぞ、痛いから泣くなよ。」と言って聞かせたそうである。 なぜそんなことを言ったのか尋ねたら、何と言うことはない「痛くないわけがないから」だそうである。なるほどこれは一理ある。 方便とはいえ「痛…

育児漫遊録(26) 注射の心得 Ⅰ

一体何発打つんだ? 母子手帳を開いてまず驚いたのを覚えている。見開きに細かな字でびっしり、ありとあらゆる種類の予防接種が並んでいる。「水疱瘡」や「おたふく」「はしか」「BCG」あたりは私もやったり罹ったりした覚えがあるけれど、「ビフ」だとか…

蝸牛随筆(41) ツンドク Ⅲ

ツンドクの極意は、とりあえず買っておくことである。 自分の専門領域であれ、馴染みのないジャンルであろうと、それがちょっとでも「ゆかしい」と感じたらとりあえず買うのです。何と非効率で不経済なやり方かと開いた口の塞がらぬ方もあるかと思いますが、…

蝸牛随筆(40) ツンドク Ⅱ

自分のツンドクを眺めていると、「あちゃー」という気分より先に「さて、次は何を読もう」という気になる。恥ずかしながら、これが読書を進める原動力となることもしばしばであり、次のが読みたいから読みさしている本を一生懸命読んでしまおう、なんて小学…

蝸牛随筆(39) ツンドク Ⅰ

またツンドクが増えた。 それは本屋に行ったからである。なぜ本屋に行ったかというと、月を跨いで各出版社から新刊が出る頃合いになったがためである。 読む本がカツカツで、活字に飢えていたからというわけでもなく、読んでいない本はわが家の書庫にゴマン…

育児漫遊録(25) メリー大好き男 Ⅴ

メッサーシュミットを模したような戦闘機が二機と、近未来的なフォルムをしたヘリコプター二機とが入り混じれて我が子の頭上をぐるぐると旋回している。 もしかすると曲目の中に「ワルキューレの騎行」でもあるのじゃないかと箱書きを確認してみたが、シュー…

育児漫遊録(24) メリー大好き男 Ⅳ

メリーを製造販売しようと思った企業の開発担当者が、端っから「よし、デラックスメリーをつくろう!」とするはずがない。スタンダードなメリーがあるからこそ、デラックスがあるのであって普通のラーメンがあるからこそ特盛りラーメンを拵えてみたくなるの…

盆栽百計「レスキュー赤松の改作」③

いい加減蒸してきた七月の軒下で、なんとか予定通り(?)にはまとまったような気がする。 奥まったところに蟠っていた旧樹冠部を切り落とし、以前はそれほどでもないチョイ役を担っていた枝が、まさかの大出世というか、どうしようもない窮地をよくぞ救ってく…

盆栽百計「レスキュー赤松の改作」➁

ギブスとは言いながら、こんな物騒なギブスなどそうそうあるものではない。 枝に沿わせるようにして、一本二本と太い(4ミリくらい)の針金をあてがう。この上から麻の紐をギリギリと巻き付け締め上げ、枝に沿わせた針金をしっかりと固定してゆく。プロである…

盆栽百計「レスキュー赤松の改作」①

先日『盆人漫録』で取りあげた「レスキュー」してきた赤松は、わが家の庭で目下養生と矯正の真っ最中である。 赤松は雄々しい黒松に比してやわらかな針葉と、古くなるにつれてツヤを増す赤肌とその細やかな肌具合から女松(めまつ)と呼ばれて親しまれてきたわ…

些事放談 「一行半」

何とも手軽な世の中になったものである。 習い事を一つ辞めるにせよ、SNSの短文一本。 「塾、辞めます。手続き要りますか?」 というのを受け取ったご同業の話を聞いて、他人ごとながら頭にきた、というよりも寧ろ哀しいような諦めに似た気分を覚えた。 …

盆栽と暮らす(7) 飾ることの意義

やはり盆栽は飾ってナンボ。と申しますのも、盆栽が歴とした文化芸術の一翼を担っているがためであるとともに、実のところ飾ることは愛好家的にも結構メリットが大きいと思う節が多々あるがゆえにほかなりません。 展示会に出すにせよ、お家にちょこんと飾る…

育児漫遊録(23) メリー大好き男 Ⅲ

「おれのメリーはさぁ、プーさんのメリーだったんだよ。しかもデラックスのやつでさぁ。」「あっ、わたしもわたしもー!」「ぼくも同じのだったよ。なっつかしいなぁ。」 将来我が子が幼稚園か何かに通い始めた時に、同期からそんなことを自慢されて、自分の…

育児漫遊録(22) メリー大好き男 Ⅱ

西松屋のどこに何が陳列してあるか、だいたい飲み込めて来た私は玩具コーナーを目指してずんずん店内を進んでいく。途中ミルク売り場を過るに及んで、ちらっと「明治ほほえみ」の値段などを確認したが、なるほど今日は特売でないとみえていつもの定価である…

盆人漫録(38) 赤松レスキュー Ⅲ

「なにやら見覚えがある・・・」と、私が矯めつ眇めつその赤松の一鉢を検分せねばならなんだのは、私の記憶の中にあったその往時の姿と今の姿とが、およそかけ離れてしまっていたがためだったのです。 かつて青々と繁りかえっていた樹冠部の枝は全て枯れ上がっ…

盆人漫録(37) 赤松レスキュー Ⅱ 

そんなでもないさ、と思って取りかかる作業ほど泥沼化することは、ベトナム戦争の例を引くまでもない。 「鉢は、庭のあっちこっちに転がってあるから、どれでも何個でも欲しいだけ持ってってくれ」というお言葉に甘えて、お庭に分け入ったわれわれを待ってい…

盆人漫録(36) 赤松レスキュー Ⅰ

「ウチの鉢と、残った樹を引き取ってくれ。」 という盆栽仲間からの依頼は、残念ながら一度や二度ではありません。年齢的なものや健康上の理由から、どうにも盆栽を続けていくことがままならなくなる時は、いづれの愛好家にも等しくやって来るのです。 果た…

育児漫遊録(21) メリー大好き男 Ⅰ

「そうだ、それがあったか!」 言うが早いか西松屋へ飛んでいったのは、殊のほか赤ん坊のことに関してはなにかとそそっかしい親父である。 彼の頭には今し方覚えた〈メリー〉という言葉がどかりと鎮座ましましていて、今すぐメリーを買いに行くべし、という…

盆人漫録(35) ベニモンアオリンガ! Ⅲ

シンクイムシという厄介者の存在は知っていたけれど、実のところその本体を目の当たりにして「こいつがシンクイムシで、ベニモンアオリンガの幼虫である。」と確認したことはありませんでした。 何せ、葉っぱの状態を見て虫がいると分かったら(いや、分かっ…

盆人漫録(34) ベニモンアオリンガ! Ⅱ

そういえば、先生は去年の今時分もホワイトボードに「ベニモンアオリンガ(シンクイムシ)」と記していなかっただろうか。そんな遠い記憶が、デジャブのようによみがえる気がしないでもない月曜日の午前中。 同好会のメンバーはそれぞれのサツキを前に、ぱちり…

盆人漫録(33) ベニモンアオリンガ! Ⅰ

われらが顧問、平先生には足かけ十年わざわざ隣町からお越しいただいている。 サツキ展後の教室は、毎年恒例の大剪定大会となるわけで、咲き終わった花を全て摘み取って、今年の春からぐんぐん伸びた芽をだいたい元の位置まで切り詰める作業に追われます。 …

育児漫遊録(20) 上から下から Ⅳ

調べたところによると、排便の頻度は子供によってかなり個人差があるということである。 一日一度、オトナみたいにまとめて出すことが多い我が子であるが、時にその帳尻が狂って出し損ねる日がある。すると彼の腹はぽっこり小山みたいに張り出して、四六時中…

育児漫遊録(19) 上から下から Ⅲ

あんまり頻繁にゲーゲーしているものだから、流石に心配になって小児科の先生にも相談した。するとこの月齢的には胃袋の構造上仕方の無いところがある、とのこと。これは時間が解決するたぐいのものであるそうだ。 それはそうと、ゲーよりも寧ろ先生の診断は…

育児漫遊録(18) 上から下から Ⅱ

転がされているだけなのに、やたらニコニコしている時がある。そんな折りは「あら、めんこい!」なんて、家人が群れ集うのは自然の理であるけれど、ゆめゆめ油断してはならない。満面の笑みと共に大量のミルクが吐き出されて、わが家のお茶の間は阿鼻叫喚の…

育児漫遊録(17) 上から下から Ⅰ

甚だ尾籠な話でありまして、お食事中の方々におかれましては、どうかお済みになってからお読み頂きたくお願い申し上げますことには、赤ん坊というもの、のべつまくなしに「上から下から」あれやこれやを出すこと頻りであって、赤ん坊の赤裸々なところを語る…

盆人漫録(32) 同好会のイジ

さぁ、大変です。 今年もやってきた「令和五年度サツキ展」に、私が出すサツキが無いのは毎度のことながら、そんなことよりも大変な事態がわれわれ同好会を見舞ったのであります。 それは深刻な人手不足。不慮のアクシデントによって、会場設営や展示準備を…

盆栽と暮らす(6) ウチの中に樹!

盆栽を飾る。するとウチの中に一本、鉢に入った樹が鎮座ましますことになるのは当たり前のことであります。やり方は実に簡単。芽を出したり、花が見頃をむかえた一鉢を「今日はウチん中に来てよ」とばかりにラチって来て、泥などの汚れを拭いてやり、ひっく…

自作解題「令和五年度サツキ展」③

Ⅲ、違い棚の部(右から順に) ●イワシデ 毎度のご登場なれど、そこのところはご愛敬。なにせ六月の展示会の折りには瑞々しい若葉を漲らせ、晩秋の展示会の時期には、ねらったような紅葉で猛アピールをしてくるものだから、愛好家としてこれを飾らないわけには…